涵養域では積雪量が融解量を [積雪・氷河・南極]

上回るので、氷河はどんどん厚くなり、消耗域では融解量のほうが多いので、氷河はどんどん薄くなるはずである。

しかし安定した氷河では、氷河の形や厚さは年々ほとんど変わらない。

これは、涵養域でよけいにたまった分が、消耗域でよけいに融けた分をちょうど埋め合わせているからで、これが氷河の流動である。

しかし、氷である氷河がなぜ流れるかという問題は長い間、物理学者を悩ませた問題であった。

19世紀にアルプスの氷河を研究したフォーブスJ. Forbesは氷河が水飴のように流れるという粘性説を発表し、一方、ティンダルJ. Tyndallは、氷河の流動を、ファラデーによって発見された復氷の理論によって説明した。

現在では、氷の結晶の塑性変形と、氷河の底面滑りが流動をもたらすと考えられている。

氷の結晶は融点近くにあるので、強く熱せられた金属が変形しやすいように力を受けると、塑性的に変形する。

氷の結晶はちょうどトランプのカードを積み重ねたような構造をもっているため、上から重力が加わると、カードが崩れていくように、結晶にずれが生じて変形するのである。

氷の塑性変形の研究は、レオロジーrheologyの発展に役だった。

塑性変形による流動は、南極大陸の氷河のように、氷がつねに底面の岩盤に凍り付いている氷河では、流動の主役をなしている。

これに対して、氷の圧力のために融けて、氷河の底面に薄い水の膜が存在しているような氷河では、この水の膜の上を氷河が滑る底面滑りが流動の主役となっている。

塑性変形だけで流動する寒冷氷河の流動速度は遅く、1年に数メートルないし数十メートルにすぎないが、底面滑りが活発に生じている温暖氷河では、1年間に数十メートルないし数百メートルも流動する。

谷氷河では、流速は川と同じように中央部ほど大きく、谷壁に近いところでは摩擦によって小さくなる。

このような流速の違いや、底面の勾配の急な変化によって、氷が引き伸ばされたり押しつぶされたりすると、氷河には割れ目ができる。

勾配がとくに急なところを氷河が通過するときには、氷河が多くのクレバスによってずたずたに割れ、セラックseracsとよばれる氷の塊になって流下する。
update:2010年02月17日